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グラン・トリノ

 いやはや、私は思いっきり勘違いしてました!! この映画の評判はそこここで聞いたり読んだりしていたものの、あらすじのたぐいは斜めに見ていただけなんですよ。しかも二十数年来のペーパードライバーでクルマに関する知識は限りなくゼロに近い。グラン・トリノってカーレースか何かの名前かな~と漠然と思ってました。なんとか族の少年という言葉やスチール写真の少年の姿(顔ははっきり見えない)がちらっと目に入り、ネイティブ・アメリカンの子かな~と、これまた漠然と。つまり私の脳内では、頑固親父イーストウッドがどういう経緯でか見込んだネイティブ・アメリカンの少年を鍛えて大がかりなカーレースを目指すためのトレーニングデイズ、もしくはロードムービーなんじゃないかという妄想ストーリーが漠然と描かれておりまして……あんなスケールの小さいお話だったとは、びっくりです。あ、でもこれはガッカリのびっくりじゃないです。思いがけず西洋版ムキムキ頑固寅さんに出くわして、面喰らいつつも感心しちゃいました。小林信彦氏が絶賛するほどの名作だとは思いませんでしたけどね。
 私がすごくいいなと思った点は、具体的な描写が何一つない妻のこと。具体的にどんな人だったのかはまったく語られていないけれど、もともと頑固で不器用な性格のうえに戦争のトラウマをしょいこんで、わが子とさえもうまく関係を築けない爺さんを、まがりなりにもまっとうに現世につなぎとめていたのは、きっと亡き妻の人徳と裁量ゆえだったのでしょう。その妻に先立たれてぽっかり空いた穴を、隣家の姉弟がつかの間埋めてくれたけれど……(この先は一応、ネタバレ自粛)。私は爺さんと若者の交流よりも、爺さんと亡き妻との声なき対話のほうがひしひしと身に迫って感じられたのですが、これは私自身が結婚20年を超えた古女房の立場だからなのかな。うちの同居人は私が先に死んだって、絶対に「世界で一番の女だった」なんて言わないだろうけど……。
 昨今、批判のかまびすしい戸田奈津子女史の字幕ですが、タオの名前をもじった侮蔑的なあだ名"Toad"(=ガマガエル)を「トロ助」と訳したセンスはさすがです。語感も意味も最大限に活かしたこういう訳、すでにできあがったものを見れば簡単にできそうな気がしちゃいますが、実はそうそう誰にでもできることじゃないですよ。とはいえ、さすがに「ミス・ヤムヤム」はいい訳が見つからなかったかな。「おっ、じーさん、枯れてないじゃん」とニヤッとしちゃいましたが(笑)。

Posted by 倉島穂高 on 2009/05/06 with 映画生活

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